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『捏造される歴史』を読みました


捏造される歴史捏造される歴史
(2012/01/25)
ロナルド・H. フリッツェ

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 タイトルと内容説明に興味を惹かれて読みました。

 もう記憶が薄れてしまった方も多いかもしれませんが、かつて大騒動となった考古学における発掘物捏造の話かなとか、フィクション作品内部における歴史構築やそれを愛好する人たちの話かな(ガンダムやFSSみたいな)とか、ストレートに歴史修正主義論争の話かなとか、タイトルから連想するものは人それぞれかと思います。

 簡単に言ってしまえばこの本は、何らかの目的のために「歴史」が恣意的に利用された事例を集めたものです。何らかの主張を権威づけたり、正当化するために使われる一種の《でっちあげの歴史》(本論中では「疑似歴史」と呼ばれています)が、どのような手続きで作られ、どういった環境のもとで受容されるのかといった具体例がこれでもかこれでもかと集められています。売らんかなの本で取り扱われる古代超文明。人種差別主義者が聖書の記述を自分の主張に都合がいいように解釈した結果生まれた創造的すぎる地球創造と人類の歴史。西洋中心主義に腹を据えかねた学者が既存のアカデミアに叩きつけた挑戦状としての新しい古代史観。などなど。それぞれの《でっちあげの歴史》そのものの内容紹介があまりにも詳しすぎてうんざりしてきたり、集めているだけで特に全体的な分析はなかったり、と脱力する点がないわけでもありませんが、著者のフリッツェは現職の歴史学教授。歴史がぞんざいな手つきで扱われることそれ自体にフリッツェが腹を立てている様子が文章の端々から読み取れますから、その意味ではフリッツェの憤りをストレートに反映したとても真摯な本です。

 取り上げられているいくつもの《でっちあげの歴史》は、それを生み出す人間の想像力と妄想力のたくましさを感じさせるとともに、そういったものを総動員してでも自らの営みに意味づけをしながら生きていかねばならない環境に置かれた人々が存在することをあきらかにします(売らんかなのでっちあげはさておき)。単に「捏造される歴史」と断罪することのできない難しさがここにはあります。フリッツェが振りあげた拳をおろしきれないままでいるような印象を読後に受けるのもそのためでしょう。

 気になったことと面白かったことを一つずつあげておきましょう。
 本論中に何度も出てくる「疑似歴史」という訳語が最後までしっくりと来ませんでした。この本の原題は
Invented Knowledge :False History,Fake Science and Pseudo-religions
ですから、素直に戻すと『捏造される知 - 偽史・疑似科学・いかさま宗教』です。この"False History"に訳者は「疑似歴史」という訳語を当てているようです。「疑似科学」という呼び方には問題がありません。科学的かそうでないかということは、実験による検証や、また実験そのものの作法といった技術的な基準で線引きができますから、「疑似科学」≒《科学のように見えるけどそうでないもの》を括り出すことができます。では「疑似歴史」はどうでしょうか? 《歴史のように見えるけどそうでないもの》とはいったいなんなのでしょうか? 「疑似歴史」がしっくり来ない理由はここにあります。おそらく「疑似歴史学」ならよかったのです。学問に作法がある限り、歴史学と疑似歴史学は判別可能です。しかしこれまでにも書いてきたとおり、この本が扱ってきたのは学問の作法に関する話ではなく、あくまでも《内容的には大変突飛であるにもかかわらず、特定の人々が「これこそ正しい歴史である」と主張している、歴史についての語り》です。歴史学には学問の作法がありますが、歴史学が研究の対象とする歴史そのものは歴史家による構築物、つまり歴史像として描き出され再現されることをどうしても免れられません。そうである限りにおいて、《まともな歴史像》と《突飛な歴史像》は明白に判別可能ですが歴史像としてはシームレスに同一平面上に在るものだと僕は思います。こういった考えから、本書が言うところの"False History"には、「疑似歴史」ではなく、《何らかの目的のためにつくりだされた歴史像》というニュアンスを込めて、《でっちあげの歴史》、ただこれでは語呂が悪いので《偽史》とでもして欲しかったなと個人的には思うところです。

 あとは面白かったエピソードをあげましょう。第5章に、極地を覆う重い氷塊によって地球の極点が移動して天変地異を引き起こす、という学説を唱えるアメリカの学者が出てきます。地球規模で起こる大災害を防ぐために、彼が提唱した解決法とは? それは原子爆弾で南極の氷を全部とかしてしまうというものでした。著者のフリッツェはもしこれが実行されていたら「罪のないペンギンの群れにどのような災害がおよんだかは想像もつかない」と茶化し半分に書いていますが、学説自体はともかく、この解決法は説が唱えられた1970年代にあっては割合突飛でもなかったのだろうと思います。先日、金山浩司さんが電通大での講義中で、ソヴィエトが核爆弾を用いた大規模な環境改造計画を立案していたことをとりあげ、ソヴィエトにおける科学技術・核技術信奉の一例として紹介していましたが、冷戦の相手国であるアメリカでも民間の学者が同じようなことを提唱していたことになります。
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